うだつのあがらない日々。
生活と生活の間のなにやら深い谷間にはまり込んでしまったようだ。
昨日は会議の席で嫌な脇汗を感じながら,「あ,はい」と返事をしている自分に思わず苦笑した。
「あ,はい?」「あ」は不要だろう?
「はい」か「Yes」それしか俺の育った世界にはなかったもんだよ。
監督の声が谷間の上から聞こえてきた。
差し込まれているんだよ。もっとポイントを前! ベルトの高さをフルスイング!
西本ヘッドの声も聞こえる。
ホームページ止めちゃダメっすよ。一緒に盛り上げていきましょうよ。
山岸コーチの怖いくらい真っすぐな目。
多くを語らず,粛々とスコアを取り続ける神田コーチのあったかさ。
毎週撮り続けた負け試合たちをいつか思い出したように見入るときが,そんな日が来るのだろうか。
◆◆◆
夏の大会「ファイブ戦」以来,まともに勝ったことがないAチーム。
堅く守って〈流れ〉を手繰りよせ,そのリズムのまま打席に立つ――あの手応えをどこかに忘れてきたようだ。五感を研ぎ澄ませて目に見えない試合の流れを感じようとする意識が,このチームには確かにあった。
「野球というスポーツは人生に似ている」
よく言われるけれど,だとしたらこのティーンエイジに差し掛かった少年たちが発するメッセージはなんだろう?
負け試合のあと,球場から1小まで監督の背中を追っかけながら走った。
結果が出ないもどかしさを顔いっぱいの汗でまぎらわして。
道中に用意された監督のユーモアと笑顔にちょっとだけ救われた気もしたっけ。
西本ヘッドに引率され,府中市民球場に高校野球の夏の大会を観戦したこともあった。
学童野球の“夏”が終わった君たちに,本当の夏が,“野球の季節”が,
今まさに終わろうとする球児たちを見てほしかった。
フライを追う2人の外野手の衝突事故は凄まじかった。
さらにさかもどれば春先,都市対抗野球大会の予選もここで観戦した。
しなやかな肉体から振り下ろされる若手投手の球。それにくらいつき,「野球の季節を手放してたまるか!」とばかりに怒声とトリッキーな動きで威嚇する,ぽっこりお腹のベテラン選手。
後日東京ドームで観戦した本戦「NTT西日本 vs 東京ガス」の華々しさは,間違いなくあの府中市民球場で目撃した泥臭さと繋がっている。
NTT西日本の選手たちが盛大な応援団をバックに記念撮影を行っているときだった。ちょっと照れながら「オレの現役時代の写真」と監督が財布から取り出したテレホンカード。シュッとした JR東日本野球部の高島選手が,屈強な猛者たちに交じって確かに写ってる。「す,すげ~!」まるで監督が宇宙飛行士のように見えた。
あの試合に登板した東京ガスの山岡泰輔投手は,先のドラフト会議でオリックスから1位指名を受けたという。
あの高校球児も 実業団のおじさん選手も 山岡投手も そして監督も西本ヘッドも
みんなみんな 君たちと同じ学童野球からスタートした。
それは長い長い道のりだけど,間違いなく1本の線でつながっている。
その一本道での最初のお別れが,気が付けばもうすぐそこ 2か月後までせまっているんだ。
◆◆◆
でも 君はそれでいいの?
楽がしたかっただけなの?
僕をだましてもいいけど 自分はもうだまさないで
この唄の〈問い〉は誰かに向かっているようで,実は厳しく自分に突き刺さる。
そんな優しさがなんか好きだ。
でも監督は グラウンドに立つ高島さんは,間違いなく君たちに〈問う〉ている。
本当のことは 見えてるんだろ?
その思いをオレに見せろよ
赤い羽根少年野球大会は,君たちが実力でもぎとったステージ。
遠慮はいらない。学童野球最後の花道を思いっきり楽しんでほしいよ。