監督はミーティングが嫌いだ。
負け試合の後,しんみり芝の上で選手たちと……なんて耐えられない。
頭で絞り出した言葉は信用しない。だったらトコトン走り込んだ方がいいという人。
選手を町へ連れ出してぐるぐるまわり,内臓が煮えたぎって苦しくってお腹の底から吐き出される
「あと少しがんばろうぜ!」
そんな水滴のような言葉だけを信頼している。
★★★
スカイホークス戦で監督が吠えた。
もう少し暖かい気候だったら,オナガとカラスがキーキーと応え,戸倉球場の名物犬「ゴンベ」がいたら,深淵な遠吠えをしたことだろう。そのくらいすごかった。
ソウタは自分がやっちまったプレーを痛いほど理解し,お腹の底から「すみませんでした!」と絶叫したかと思うと,5分後にバットで応えて見せた。詰まりながらも右中間に無理やりねじ込んだ。
ソウタがサンダースの副キャプテンとして,監督と言葉じゃない会話を続けてきたことを知っているよ。
「三塁手はよく赤い炎に例えられるけれど,お前は青い炎だな」そんなことを言われていたっけ。監督の真っすぐな言葉に萎縮し,できれば受け流したいという表情が,肝の据わった顔つきに変化したのは,夏が終わったあたりからか。
今日のソウタは,チームに大切なものを指し示したと思う。チーム全体が高島野球とビシッとシンクロした瞬間だった。
「ああ,ソウタらしい副キャプテン像がやっと出来上がった」そう思ったよ。
さあ準決勝はファイブ戦。
最後の最後まであきらめない泥臭~い野球をやってやろうぜい!
★★★
さて,送別大会 準決勝前夜はどう過ごそう。
テレビを消して,静かな部屋で道具の手入れなんてのもいいかもしれない。
バットとグローブを磨きながら,いろんな角度からしげしげ眺めてみよう。
砂まみれのスパイクとアップシューズの手入れもお忘れなく。
道具たちは愚痴ひとつこぼさず,いつだって君たちを支えてくれたね。
そしてあと何イニングこのチームで試合ができるか,あと何打席自分に残されているかに想いをめぐらそう。
自分がやれること,やり残したことをもう一度胸に刻んでみようか。
★★★
当日の朝,洗い立てのユニフォームに袖を通す。
きつい練習につきあってくれた大事な道具たちを手にし,
最後に紺色の帽子とヘルメをかぶる。
オソレルコトハ ナニモナイ
ヤレルコトヲヤルダケダ
「行ってきます」
力強く言って扉を開けなさい。