1234567TOTAL
ファイブスターズ110042311
国分寺サンダース00003003
ピッチャー:ごう-そら
キャッチャー:ひろと

「バコーンと打たれりゃいいじゃない(覚悟を決めろ!)」

監督のドスのきいた声が聞こえる。
キャッチャーのひろとは外角低めを要求する。
相手ベンチの応援が耳鳴りのように迫ってくる。
打たれるのが怖い……でも投げなきゃ。
マウンドをいったん外し 嫌な汗をぬぐった。


ファイブ戦はやはり独特なものがある。
甘い球がくれば,初球でも迷わずフルスイングしてくる。
まるで奇襲をかける白い戦闘機のよう。
あれよあれよという間にランナーがうまり,小さなミスが傷口に変わってゆく。

 

いつしかマウンドのゴウが,法廷の中央に立つ証人に見えてきた。
そう,野球はどこか裁判を思わせる。
各陣営が証言台の両側にかまえ,それを陪審員たちが取り囲む。
同じフィールドで,攻守をがらっと入れ替える。そんな変なルールを持つスポーツはない。
ある時間帯しか点を入れられない構造のルールなんてものは減多にないのではないか。


もしこれが裁判だとしたら,各々が主張するものはなんだろう?
ファイブは明確な証言をしそうだ。
統率のとれたバッティングスタイルと堅い守備。
厳しい練習とタフな試合を積み重ねてきた僕たちこそ,勝ち進む権利がある――と。


一方サンダースが主張するものはなんだろう?
そもそも監督が言う「おまえたちの野球」ってなんだろう?
そんなことを考えながらカメラを回し続けた。

 

 

ファイブ戦 総評――●神田コーチ

今日の相手はファイブスターズ。監督、コーチみんな、決して勝てない相手ではないと思ってる。だけど、できることをやらなかったら絶対に勝てない相手。結果はどうだったのか。

 

ピッチャーごうは、初回から四球の連発。何を気にしているのか、コースを外れる球は全部高め。ごうは球が上に行くとき、だいたい気持ちというか、考えは決まってるんだけどね。それだから、犠牲フライでタッチアップされた後、監督が3回も「3塁に投げろ!アピールしろ!」、と言っているのに、その言葉も理解できない。

 

それから2回、セカンドゴロは二塁手こうが動きが遅いから全然追いついてない。それに加えてライトだいちはライトまで来ると思ってないからあわてて動いてバウンドに合わせられない。後逸してテイクツー。入らなかったはずの1点をあげちゃった。

 

続いて7回もだいち。ライトゴロのはずがポロ。なんでもないゴロなのに、練習で何度も言われてきたことをやらなかったから、やっぱり取れない。でも大丈夫。記録上、ライトゴロははじいてもエラーにはならない。エラーにならないからピッチャーの自責点。打たれたピッチャーのそらが悪い。・・・三振だけでアウトを取りたくなる訳だ。

 

それから、5回のライトフライ。何で落しちゃったのかな。言い訳してたけど、それで次はできるようになるのかな。

 

そして、送りバントができなかった、こう。何で3球連続でバントできなかったのかな。練習の時できてた何かをやらなかったんだよね。試合中はだれも打席まで教えに行くことはできないんだ。

 

極めつけは、ごう。0アウト、ランナー1塁から打球はセカンドゴロ。絶好のダブルプレーチャンス。4(たけと)-6(ごう)、ところがそこから1塁に投げない。なぜ投げなかったのか聞いたら「間に合わないと思いました」との答え。やるまえからダメだと決めつけちゃってる。やるまえから勝てないと決めつけちゃってる。それじゃ勝てるわけない。1塁に投げてセーフだったとしても、それ以上に何も起きないのに。それよりか、アウトにできたかもしれないランナーを塁に残してアウトカウントも増やせなかったから、そらの失点・自責点を増やしちゃった。

 

あとはみんなの声、だな。ときどきベンチの後ろの方から、「静かだなー!!(怒)」。何度か聞こえてきた。 やっぱり、できることをだいぶやってなかったから。勝てない訳だよな。

 

僕たちの野球ってなんだろう?

「やれることをちゃんとやろう」「練習の練習はするな」
監督の言葉が,今日ほど身に沁みた試合はないかもしれない。
苦しい試合になればなるほど,身体はこわばり,当たり前のことができなくなる。
そこをファイブの選手たちはできていたんだ。


とはいえ,勝負をあきらめない“しぶとさ”は異様なまでに光っていた。
国分寺市内・市外とわず,対戦先へは毎週ランニングで向かった。
用意されたグランドの片隅で,スクワットやバービーをげたげた泣き笑いしながらこなした。
ランニングもスクワットもバービーも自分との闘い。にもかかわらず,チーム全体で楽しみ倒すまで極めた。そういった成果がチームの資質となって滲み出たんだと思う。
このしぶとさを“サンダースっぽさ”って言ってもいいかもしれない。

 

 

「サンダースが証言台に立ったら何を主張するのだろう」
あの妄想は帰宅してからも続いている。
そんな折,ユウアの枕元にある「サンダース図書」を発見。ちばあきおの『キャプテン』第13巻を手に取る(文庫版は全15巻)。


後半の『キャプテン』はしっかり読んだことがなかった。一代目キャプテン・谷口や二代目・丸井が脇役となってから,「話が単調」「キャラクターが希薄」そんな周囲の感想に,漫画家が苦しんでいたのは知っている。
でも実際読んでみて,後半になっても魅力は失われていないことに驚く。
〈どこか欠点のある,身近にいそうな少年たちがくりひろげる野球群像劇〉それが『キャプテン』のテーマだとしたら,その純度は後半こそ高いかもしれないと。


「ああこれってサンダースっぽいな」そんな場面を見つけて頬がゆるむ。
三代目キャプテン・イガラシ君のくだり。
土砂降りの雨で試合は一時中断。疲れ果てたナインに丸井(前)キャプテンがある提案をするシーン(ちなみに丸井は,ちばあきおの分身。顔もそっくりだ)。
ちばあきおが人気至上主義の商業誌で,精神的にも肉体的にも追い詰められながら6ページも使って表現した“笑顔”。

サンダースが証言台にのぼったら,きっとこんな感じの主張をするのかもしれない。

ちばあきお:キャプテン(13)(集英社文庫より)